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2013年10月19日 (土)

『愛の夢とか』

川上未映子 『愛の夢とか』 講談社 2013

川上未映子の短編小説集です。
彼女の文章って、夕刊連載のコラムやエッセイは読みましたが、
小説は初めてでした。

独特の雰囲気がありますね。
登場人物が、うねうねと考えを巡らせて逡巡しているとき等は
文章もうねうねと長く続き、時にはひらがなだらけになったり。
反面、会話だけで進む箇所などは、スパスパっと小気味よいスピード。

短編をまとめているテーマは、
大震災後の、なんとなく一人では不安、違和感…といったムードでしょうか。
ちょっと現実離れしているような、いやいや、どこかにありそうな…
この距離感が小説ごとに異なります。
ふわふわ、甘い砂糖菓子のような雰囲気で話は進んでいくのに、
ところどころに、ドキっとするような表現があったり。

「愛の夢とか」は2作目の短編の題名。
まさか、フランツ・リストのピアノ曲の、あの愛の夢だったりして?
と思ったら、まさにそのとおり。
近所の老婦人が奏でる「愛の夢」をめぐっての交流ストーリー。

「愛の夢」について、主人公の若い専業主婦の感想を抜き書きすると

・愛の夢という、なんだかおしりの割れ目がむずむずするようなタイトルのこの曲は、とどこおりなく弾いてしまうと四分ちょっとの長さ

・初心者向けの曲なのか、そうでないのか、もしかしたらすっごく上級者のための曲なのかわからなかったけど、途中の盛りあがりのところとかとにかくすごく大げさで、駆けあがっていくのか駆けおりてゆくのかその両方なのかわからないけど、過剰に劇的な雰囲気がちょっとこそばゆくて大変だった。

・もう終わりと見せかけて無駄にヒステリックな高い音でつながって、そしたらあらヒステリックに聴こえたかしら?わたしただ気位が高いだけなんだけどみたいな言い訳までが聴こえる始末。

・そのあとすかさず低音で説得力を響かせて、まだまだつづくと思わせておいてぷつんと切れてこれまでかかわったいろいろをいっさいがっさい、置き去りにするこの感じってなんだかいったいどうなんだろう。

うまいな~。表現。

もう一つ、ピアノ関連で、こんな一文がありました。
「お花畑自身」という短編。

・夕方になると近所の教会の鐘がうっすらと響きはじめ、その音が聞こえたらわたしは手を止めて下に降りてゆき、お人形みたいなメジューエワの弾くモーツァルトを小さく絞った音量で流しながら丁寧に料理をするのです。

主人公が、かつての優雅な日常生活を夢想しているシーンです。
これまた、見事な描写ですね。
メジューエワは、ちょうど最近ここで話題にしたピアニスト(→)。

川上未映子さん、バンド活動をされていたことは有名ですけれど、
ピアノ音楽にも詳しそうだなあ、と思いました。

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