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2013年5月18日 (土)

『水のかたち』

宮本輝 『水のかたち(上)(下)』 集英社 2012年

大人のためのファンタジーといった趣と、
「生きるとは」を見つめ直し、歴史観を問う骨太のテーマ。
この二つを美しく融合させた作品……という印象です。

50歳になったばかりの志乃子(しのこ)が主人公。
大学時代に知り合って恋愛結婚をした夫、琢己(たくみ)、
社会人1年生の長男、美容師修行中の次男、高校生の長女
という家族の主婦です。

その志乃子の独白。(上巻p.186)

「五十の坂」という言葉を三好のおじさまから聞いたのは、自分が高校生のときだ。四十代の終わりから五十代に入って二、三年のあいだに、人には必ず大きな坂が立ちはだかるという。

まさにこの年代の私。うわお!と思い、
そして、この主人公にどんな災難が降りかかるのだろう…
と案じたのですが、
案に反して、彼女が面した「坂」は、
彼女の才能や人柄を認める人々が差し出す「大きなチャンス」でした。

上記引用文の「三好のおじさま」とは、骨董品の審美眼を持つ老人。
ひょんなことで、彼女が譲り受けた茶碗が、数千万円もするもの
だということが判明し……。

家族、親戚、近所の人々、学生時代からの友人、
人脈から知り合う各界トップの面々、
……こういった人々から志乃子への、
反対に、志乃子から彼らへの、サポート。
人間、支え合いだよね、といったエピソードが次から次へと語られます。

また、
茶碗とともに入手した手文庫の中には、
戦後、大変な思いをして北朝鮮から日本へ引き上げてきた人の記録が
入っており、
それが、次男の上司のファミリーヒストリーに繋がって…。

その話の繋がり方が、ファンタジックなのですが、
話一つ一つは、大変に現実味があり、人間への慈愛に満ちている
そんな気がしました。

「水のかたち」というタイトルの意味するところ、
全巻を通して読んではじめて納得できるものでした。
非常に読みやすい本でありながら、
娯楽小説とは一線を画す本でもあると思います。

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