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2012年6月17日 (日)

『人質の朗読会』

小川洋子 『人質の朗読会』 中央公論新社 2011

新聞で、だったか、小川洋子、初のミステリー本、といった論調での紹介文に触れ、
興味を持って手に取ってみました。
この「ミステリー本」というのは、私の勘違いだったかと思われます。

異国の僻地で人質として監禁されてしまった日本人たちが、自分についての手記を書き、それを朗読する。
……この状況は、いかにもミステリーじみていますけれども、
「さあ、この監禁事件はどうなる? 人質たちの運命は?」というなぞ解きは皆無。

なにしろ、この本のごく最初の箇所で、
「人質は犯人の仕掛けたダイナマイトの爆発により八人全員が死亡した。」
とはっきり書かれているのですから。
その後、犯人グループの動きを探る盗聴テープが公開、ラジオ放送される、という筋書き。

わたくし、初めは「手記のなかに、なにか事件の鍵が隠されているのかも」
などと思って読み始めたのですが、これは明らかに見当違いでした。そうではなく、

「極限状態で、それでも、自分の話をじっくり聴いてくれる仲間のいる状況で、
それまでの人生を振り返るとき、どんなストーリーが語られるか」

「この僻地への旅行を選んだという、その人自身の人生(職業、立場)と、
その人が語るストーリーとは、どのような関わりを持つのか」

といったことについて、読み手側が、しみじみ考えさせられてしまう……といった構図かと。
9人(人質8人と、人質とともに死亡した現地の特殊部隊通信人1人)によって、それぞれの体験談のエピソードが、淡々と語られていくのですが、
このエピソードの選びとられ方、語られ方、小川洋子ワールド全開です。

それぞれの朗読についてタイトルがついています。ちょっと紹介してみますと、

「やまびこビスケット」
(調理師専門製菓コース教授・61歳 女性/研修旅行のオプショナルツアーで参加)

高校卒業後の就職先、ビスケット工場で「ベルトコンベヤーを流れてくるビスケットから、不良品のアルファベットを取り除く」仕事を任されていたときのエピソード。その不良品ビスケットを仲介として芽生えた、整理整頓に固執する嫌われ者の大家さんとの交流。

「冬眠中のヤマネ」
(医科大学眼科学教室講師・34歳・男性/国際学会出席の帰路)

私立中学在学中の通学路で出会った、手作りのぬいぐるみを売る片目の老人とのエピソード。偶然、老人とともにイベントに参加する羽目に陥り…。

「ハキリアリ」
(政府軍兵士・22歳・男性/Y・H氏の通訳により放送)

(手記の内容は伏せておきます…)

******************************

読後感、ただもう、しみじみ。


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コメント

現実的ではないが、
いかにもドキュメンタリー風に作られていて、著者のするどい観察感にピリピリしそうです。

重い結末ゆえ、さすがにLASTには持っていけなかったのではないでしょうか。

常に結末を片隅に置きながら展開していくストーリーに

静謐とした空気感とともにある種の清涼感さえ感じられるような気がします。

PIO様の読後感からそのように感じました。興味深い本です。

騎士様

「鋭い観察眼」「興味深い本」……そのとおりでした。
小川洋子って、独特の世界、雰囲気を醸し出す人ですよね。
「小川洋子ならでは」感って、すごいものがあると思います。

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