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PIOの新ブログ

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2010年6月19日 (土)

『六本指のゴルトベルク』

2009年刊。
『図書』に連載された青柳いづみこ氏の著作集。

標題は、
『羊たちの沈黙』のレクター博士(6本あった左手の指を、手術で1本除去!)の
その除去ゆえ「左手の微かなこわばりが、そこには影を落として」いるかのような
「完璧ではないが」「この曲の真髄への理解が滲みでている」演奏を指します。

さまざまな小説に出てくる音楽やピアニストを取り上げ、
その姿を分析したり、批評したりしているのですが、印象に残ったのは次のようなくだり。

小説の中のピアニストの生い立ち説明の中で…

 外には一歩も出さず、小学校への通わせず、アイウエオより早くドレミを覚えさせ、朝も昼も晩も食事の席ではモーツァルトを聞かせ、おもちゃがわりにウィーンの銘器ベーゼンドルファーを与え、世界に類のないモーツァルト弾きをめざして日夜特訓する。
 もっとも、世界に名だたるピアニストは、たいていそういう子供時代を送っているだろうと思うが。かくいう私だって、小学校は行ったが幼稚園には行かせてもらえず、朝から晩まで巨大なスピーカーでモーツァルトやベートーヴェンばかり聞かされていたっけ。(p.30)

カストラート(去勢された男性の高音程歌手)の一生を説明する中で…

 カストラートの全盛期には、少なくとも宝籤に当たりさえすればうまみはあったのである。しかし、ヴァレリーノ(小説の中のカストラート)の時代には、宝籤に当たった者ですら払った犠牲に見合うだけのものは返ってこない。
 これまた、有名音大を出ても海外に留学しても国際コンクールに入賞しても、一流オーケストラと共演してすら食べていけないこんにちのピアニスト事情にあまりによく似ているので、私はふたたび身につまされてしまったのである。(p.157)

「音楽の快楽」と題するエッセイで…

弦楽器や管楽器と違って、オーケストラに入るという選択肢のないピアノは、職業としては成り立ちにくいジャンルである。他の楽器や歌手と共演する室内楽や伴奏ならまだ仕事があるが、ソリストはなかなかむずかしい。(中略)
 たまに演奏の依頼がきても、ギャラの交渉などするのは大人げない、というやせがまん気質で、仕事が終わってから渡される袋の中身をたしかめて愕然とする。個人レッスン代も、多くは封筒に入れてテーブルの隅にひっそりと置かれる。親たちが銀行で用意する新札は、貨幣という生臭さをとりのぞかれ、お布施にも似た神聖な意味あいをもたされる。
 こんなに商売っ気がないのだから、三十歳をすぎても食べられないことに変わりはなく、私など、ピアニストとしてデビューしてから、もう一度芸大の大学院にはいりなおして博士論文を書いたり、回り道したこともあって、四十歳をすぎるまでは、収入が少なすぎて確定申告にすら行く必要がなかったおぼえがある。(pp.224-226)

……

うすうす感じてはいましたが、
音楽で食べていくって、本当に大変なのですね。。。

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コメント

一流を目指せば目指すほど、仕事という面では難しくなるのかもしれませんね。
地元の音大出て「楽しいお稽古事」の先生としてやっていくのが、本人にも周囲にも一番摩擦のない生き方なのかも・・・。「G大出」ということや「留学経験あり」で、「お月謝高そう」「厳しそう」「専門に進まないと許されないかも」ということで、(そこまで熱心でない)親からの敬遠もありそうですし。
(ピアノの)ソリストを目指しているうちに伴奏の仕事がたくさん入ってきて、そちらがお金になるし、ある意味楽だし・・ということで、ソロは弾かなくなる方も多いようですが、逆にソリストの中には「ソロを弾くことをやめた伴奏ピアニストにはお願いする気になれない」とおっしゃる方もあるとか・・・。
たしかにギャラのことを言う演奏家、お月謝に細かい指導者は嫌がられる傾向はありますよね。でも、パトロンでもいない限りそのあたりは自分で切り開いていかないとならないことでしょうし、なんとか上手くやっていかないと、あとに続く方々への影響もありそうです。

いずれにせよ、子どもを音楽の道に進ませようと思う親は、投資分を少しでも回収しようなどという考えはハナから持ってはならないということでしょうか・・・・。

≫いぞるでさん

>一流を目指せば目指すほど、仕事という面では難しくなる


本当に、そうですね。。。
私の知り合いのお嬢さんが、進学校に通いながら本格的にピアノも習い、コンクールにも出ていて、学校の宿題など学業との両立に悩まれている…
という話を、現在演奏活動もされている、さる方にしたところ、


「音楽大学への進学にこだわるのは、やめたほうがいい」
「音楽以外で一流大学に進めるなら、迷わずそちらを選ぶべき」
「音楽は、日本の音大以外の場所で、いくらでも学べる」


というようなことを力説していらっしゃいました。
やはり、音楽で「食べていく」のは、われわれが子供のとき以上に大変なことになっているとか。
確かに、少子化の世の中ですしねえ。

一方、いいかげんな教え方の「町の音楽教室」の先生が、
ばんばん生徒をとって、がんがん稼いでいる……ということもありますね。
なんだか、不条理を覚えます。はい。


でも、青柳さんご自身も書いていらっしゃいましたが、
たとえ収入が低かろうと、音楽を職業に選んだことを後悔する気持ちには全然ならないんだとか。
そう思える人こそが、音楽家に向いているともいえますね。

>いいかげんな教え方の「町の音楽教室」の先生が、
ばんばん生徒をとって、がんがん稼いでいる


ん~~~~~~~~(-_-;)
一流を目指す方はやはり”それなり”にお金も掛け、自らの目指す道を追求なさっているので
こういういわゆる『町の音楽教室』などハナにもかけていらっしゃらないのでしょうし
ピアノを習う子どものみんながみんなプロを目指すわけではないので
やはり、プロ志向でない『町の音楽教室』の存在意義は大きいと思います
まぁ、うまくしたもんで、いい加減な方はバンバン生徒さんは集まらないし、そうガンガン稼げるわけではない、うまく淘汰されているようにも思えます
集まる生徒さんのレベルや音楽への取り組みを観て教室を選ばれる方も少なくないでしょうし・・・・・

>華音さん

不用意な表現で、御不快な思いをさせてしまったようですね。
大変申し訳ありません。。。

>プロ志向でない『町の音楽教室』の存在意義は大きい


もちろん、私も同様に思います。
ただ、近所に「シングルマザー」であることを前面に出し、
かつ、マスコミ受けする機関とうまく提携して、「バンバン」といった感じの方がいらしたので、つい……


>集まる生徒さんのレベルや音楽への取り組みを観て教室を選ばれる方も少なくない


これまた、おっしゃるとおりです。
私はその調査をおろそかにして、息子にいい音楽体験をさせてやれなかったという、苦い思いを抱いております。

テスト中、テスト前であるにも拘らずTVに齧りついて素っ頓狂な声を上げている娘達につられて夜更かししてしまっております

いえいえ、不快な思いをしたわけでは決してなく・・・(^_^;)
こちらこそ、PIOさんを恐縮させてしまったようで申し訳アリマセン
ただ、うちの娘たちは本人たちにもプロになどなるつもりはなく、親のアタシ達にもそんなつもりも余裕もこれっぽっちもないので、特に力を入れてお教室探しをしたわけでもないのですが、幸いにも、親が送り迎えせずとも”一人で通える”ということを主眼に探した中で、とてもいい先生にめぐり合えて、本当に楽しんで音楽を続けているので、『町の音楽教室』も捨てたもんじゃないな・・・と
この先生のところの生徒さんは皆さん長く続けていらして、今はうちの娘たちが最年長ですが、つい数年前まで身近に目指すべきお手本がいらしたので続いてた・・・っていうのもあり、先生ご自身も先生仲間の方に「うちもこんな幅の広い発表会をしたいわ」と言われた・・・と仰っていました
アタシ自身、高校卒業するまで音大の講師をなさっている先生についていましたが、音大に進学するつもりならそれなりのレッスンがあるし、どういうつもりでレッスンを続けるのか?ということを聞いてくださり、うまく導いてくださったお蔭で、今も”楽しんで”音楽を愛好できていると感謝していますし。。。。


「(専門的に専攻なさっていなくても)ちょっとピアノが弾ける」「シングルマザー」
アハハ・・・・それを看板に生徒さんとっておられる方、アタシも存じ上げております
音楽に限らず”何事か”を究められるような方は、そのお気持ちが強いほどご自身で追求したいことへの欲求が、家庭生活とうまく折り合いがつかない(よっぽど理解ある配偶者に恵まれておいででなければ)ことも多いのかな?意思も強そうだモンね・・・と、娘さんの頃からピアノのほかのお稽古事もなさり、結婚後もうま~く家事育児とレッスンとを両立なさっている”ゆる~~い”感じの先生だからこそ、うちの子達ゆったりした気持ちで続けてこられたのかもな・・と思ったり(^_^;)

>華音さん

ていねいな返信、ありがとうございます。
ほんとに、ピアノの先生とは「ご縁!」だと思います。
私は転勤族家庭に育ったので、引っ越す先々で、あるいは先生のご都合により、何度も先生を変えていて、子供時代からの長いつきあいといえる先生は、いらっしゃいません。


ただ、数年前から新たな先生につくようになり、音楽が変わったと、最近よく言われます。
指導者の影響力って、大きいですよね。
これからも、ご縁を大事にしていきたいと思います。

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